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個人総合決勝前にルーマニアのバンとオーストラリアのルッソが棄権。オーストラリアはムーアハウスが三番目の成績であった為リザーブリストには入ってなかったが、ルッソの棄権で枠が1人空いた為、第一リザーブとなり、第一班に入った。そして本来の第一リザーブのゴンザレスがルッソの代わりに第四班に入った。

第一ローテ

跳馬ではいつも肝心なところで失敗しているホルキナが果たして決めてくるのかに注目されたが、その点でいえば、ホルキナの出来は予想以上によかった。位置的に着地がどの程度動いたか分からなかったが、少なくとも予想以上にうまくいった着地であった。完全に止まってはいないが、非常に高い位置で収めたように思える。パターソンは逆に前に一歩出てしまって本来の出来ではなかった。しかし、去年までのユルチェンコ一回半ひねりを2回ひねりにしてきて、0.1価値点を高めただけあって、まずまずの得点は出た。ソフロニエもユルチェンコ2回ひねりでまずまずの出来。張楠はユルチェンコ一回半ひねりだが、きれいに決めて、価値点の高い他の選手に何とか着いていった。キューペッツは今大会では珍しい伸身ポドコパエワを決め、平均台のゴメスは側方宙返りでバランスを崩してしまったが、ウクライナのコジチは段違い平行棒で得意の大逆手エンドー系で質の高さをアピールしていいスタートを切った。圧巻はフランスのルペネであった。車輪とび一回ひねり〜デフ、下りも二回目の宙返りに2回ひねりを行う新月面で抜群の難度で構成。得点も9.687とした。フランスはその後のデボブもよく、コーチに入っている中国の方の指導がいいと思えた。同じく段違い平行棒のパブロワは車輪一回半ひねりからイエーガーにしたかったはずだが、車輪を入れてしまい、価値点を下げた。そして、中国の王恬恬が大逆手車輪一回半ひねり〜トカチェフという高難度の組み合わせ、そして最後のかかえ込み月面も止めて、一種目を終えてトップに立った。他の選手は段違い平行棒、平均台で落下が多く見られ、緊張感が出てしまった。

第二ローテ

平均台でコジチがジャンプ系などバランスを大きく崩し、精彩を欠いた演技で得点を伸ばすことができなかった。パブロワは最初のシリーズの最後の要素である横向きから後ろとびひねり倒立支持で倒立静止ができずに冷やりとしたが、下りの三回ひねりもピタリと決めるなど、大きな減点個所は見せずに9.650と高得点をマークした。しかし、一種目めでトップに立った王恬恬は平均台で下りで乱れがあったようで点を落とした。ゆかのゴメスは2回半〜前方かかえ込み一回ひねりでラインオーバー、三回ターンで大きく横に飛んでしまうというらしくないミスを犯してしまい、もう一つ得点を伸ばせない。平均台のルペネもコルブト一回ひねりでバランスを崩し、三回ひねりで手を着き上位争いから脱落。しかし、デボブは側方宙返りや後方宙返りでも安定して上位に残った。段違い平行棒のソフロニエはまずまずの出来で高得点をマーク。ホルキナは低棒でのシュタルダー一回ひねりで軸がぶれて冷やりとしたが、その後にうまくほん転倒立に繋げてミスは見せなかった。しかし、実施減点としては引かれてしまうのではないかと思われたが、9.725を出し、うまく乗り切った。クーペッツはボルピ、トカチェフの放れ技を高い位置で決め、パターソンも前半に一気に加点を稼ぐ構成で下りの月面も着地を止めた。そして張楠も安定した片手軸の大逆手車輪一回ひねりなど美しい実施で演技を終え、優勝争いは男子と比べてミスのない高いレベルとなった。この時点でホルキナがリードを広げ、いよいよ第一班は問題の平均台を迎えることとなる。

第三ローテ

会場全体に、優勝争いがまずアメリカ対ロシアにかなり絞られつつあり、ルーマニアのソフロニエと中国の張楠ら、まだ可能性がある選手に対する声援が比較的少ないように思えた。そんな中、まず脱落したのはアメリカのクーペッツ。カテッテの半ひねりで大きくバランスを崩し、かかえ込みジャンプ一回ひねりでもバランスを崩し乱れてしまい、8点台としてしまっった。ソフロニエも側方宙返りで大きくバランスを崩した。しかし、このローテで平均台とゆかでそれぞれ最初に演技をしたパターソンとパブロワは素晴らしかった。パブロワは団体決勝でも会場を引き付けた音楽と振り付けで魅力的なゆかを演技し、各タンブリングもこれまでで一番うまく決めてきた。2回半〜開脚伸身前宙は今回は当初の予定通りに行ったものと思えた。パターソンは団体決勝では乱れを見せていたが、今日は素晴らしかった。各シリーズに不安個所を見せず、下りのアラビアンダブルも今まで見た前方宙返りで一番素晴らしい着地であった。これで得点を9.725まで伸ばして優勝争いに優位な位置につけた。張楠も今日は落ち着いて決めて、非常に集中したところを見せ、9.662と、優勝争いに加わった。しかし、ここでホルキナが崩れてはいけないのだが、交差ジャンプ〜かかえ込みジャンプ一回ひねりのあとのシュシュノワ3/4ひねりに繋げることができなかった。しかし、その後予定してなかった後転跳び一回ひねりからそのシュシュノワのひねりを行い、彼女の意地を見ることが出来た。しかし、得点はやはり崩れた分伸び悩み、パターソンに0.026差でリードを許してしまった。また、優勝争いから少し離れるものの、フランスのデボブはゆかも好調で、かつて83年の世界選手権でビチェロワが使っていたテンポの速いゆかの演技で会場を大いに盛り上げ、月面やアラビアンダブルなどを次々と決めた。王恬恬はゆかでも最後の三回ひねりでラインオーバーして優勝争いから外れた。

この段階でパターソンがトップ、二位にホルキナが続き、三位にパブロワが続いた。パターソンからパブロワまでは0.076差。またも僅差の優勝争いとなった。四位には中国の張楠が続き、パブロワまでは0.150とした。ソフロニエも5位に続き、ここまでがメダル圏内となった。6位には好調のデボブが入り、いよいよ最終種目を迎えた。

第四ローテ

最後が跳馬になったパブロワはゆかに回った選手よりも得点的には非常に不利な状態で優勝あらその最後を迎えることとなった。逆にゆかに回った選手は実施減点を見せず、特に体操系でのしっかりとした捌きが価値点にも影響するのでどの要素も気を抜けない状態であった。その点、張楠はタンブリングも三回ひねりがやや後ろに着地で跳んだもののきれいな実施で、ターン、ジャンプ系では軸がしっかりと取れて、まずはベストを尽くした演技であった。そしてホルキナ。一本目のシリーズの後、横にずれるような着地ではなかったものの、前にいつも以上に跳んでしまった印象を受け、カテッテからのかかえ込みジャンプ2回ひねり、三回ターンも加点を取るには微妙な捌きであったように思えた。後で現地テレビ放送を見るとそこまではっきりと実施の欠点は見れなかったように思えたのであるが、アナハイムと違ってまだ後ろに控えているだけにもう一つ点が伸びず、9.562に留まった。価値点が9.9であったので、こんなところであるのだが、やや伸びきらない感じではあった。一応加点を計算してみると・・・2回半〜前方かかえ込み一回ひねりで0.3の加点、カテッテひねり〜かかえ込みジャンプ二回ひねりで0.2、三回ターンで0.1、テンポ〜三回ひねりで0.3、屈身ダブルで0.1、ねこジャンプ〜ホルキナで0.2が取れると思えたが、もしかしたら三回ターンはやはり実施が悪く加点を得ることは無理であったかもしれない。ここで、コジチがきれいにユルチェンコの一回半ひねりを決めた後、全く点が出なくなった。あまりにも長く、しかも、スコアボードには名前すら出ないので、マシントラブルが発生したと思われた。その後は王恬恬であったのだが、しばらく待って演技が出来た。ユルチェンコ2回ひねりを決めてきたがここでもしばらく採点を待つ。その間、ソフロニエがゆかを行い、タンブリングはよかったが三回ターンでバランスを崩してしまい、張楠には届かず。そしてソフロニエの演技のスロー再生が終わった後、ちょうどそれを待っていたかのようにパブロワが演技をした。ユルチェンコ2回ひねりの出来はまずまずであったが、9.8の価値点では少なくともホルキナを上回ることができず、張楠に逆転を許した。それ以上に、あまりにもテレビのタイミングに合わせたような待ち時間があり、それが果たして事前に告知されていたものなのかどうかが気にならずにはいられなかった。そしてパブロワの演技を見てパターソンが登場。ホルキナ、パブロワと点が伸びなかったので、ベストの演技をすれば、まずは優勝が堅いところであった。そして演技はプレッシャーを感じさせないほぼ完璧なものであった。価値点計算のため内容を書いておくと、ポパ〜かかえ込みジャンプ2回ひねりで0.2、かかえ込み月面で0.2、アラビアンダブルで0.2、カテッテ一回ひねりで0.1、2回半〜伸身前宙で0.2、ねこジャンプ2回ひねり〜ねこジャンプ一回半ひねりで0.2、最後の屈身ダブルで0.1。ちょうど1.2となり、価値点10点となる。そして得点は9.712。昨年果たせなかった女王の座をこの五輪の大舞台でつかんだ。

観衆の大歓声の中、演技を行なったのはヤロツカ。少しかわいそうであったが、最近あまり見ることができない組み合わせである閉脚イエーガー〜低棒飛び越し〜シュタルダー(加点がつかないのが残念)を見せ、落ち着いた実施で一気に6位に食い込んだ。ゴメスも得意の段違い平行棒で団体決勝同様に着地を止めて、8位になった。デボブは最後に跳馬となったのが痛く、7位に順位を下げた。

印象的だったのは競技後、ホルキナがロシア国旗を観客席から渡してもらい、ポディウムに立ったり場内一周したり、喜びの表情を見せていたことだ。彼女のファンなら最後になるかもしれないアテネでの金メダルを夢見ていたかもしれないが、彼女自身は金メダルを逃した悲しみよりも、五輪で初の個人総合メダルに大変喜んでいたように思えた。団体での銅メダルといい、彼女が決して暗い表情を見せなかったのはほっとする。そして、それ以上に彼女の素晴らしさを感じたのは、ゆかと段違いの選手一人一人に最後のねぎらいの挨拶を行なったことだ。ホルキナにあこがれる選手は多いと思われ、その彼女が見せた素晴らしいスポーツマンシップ、そして年長者としての貫禄は今後の選手に大いに影響するように思えた。