ロンドン五輪・・・女子団体
アメリカ対ロシア、そして中国対ルーマニア。正に予想通りに金メダル、そして銅メダル争いを展開した。
アメリカもロシアも、まず他国を圧倒的にリードするのが跳馬だ。Dスコア6.5のアマナールは、日本の寺本がようやく戻してきたユルチェンコ2回ひねりのDスコア5.8を0.7も上回る。それが積み重なると跳馬だけで他国を2.1も上回る。アメリカは3人がアマナール、そしてロシアは2人がアマナール。他国は誰もアマナールを行っていない。その中で、アメリカはアマナールの実施を3人ともほぼ完ぺきに行った。一方ロシアは最後のパセカが大きく乱れた。このアメリカのリードはかなりその後の展開を有利にするものであった。
その後、ロシアが段違いで追い上げを見せるものの、平均台ではムスタフィナとコモワに乱れが出て、リードを広げられてしまった。ゆかの得点でアメリカに劣る為、平均台での自滅は更にロシアの選手たちにプレッシャーを与えてしまった。
最後のゆか。ロシア待っていたのはまさかの事態であった。2人目のグリシナが後方1回半ひねりからロンダード繋げるところで大きく乱れ、その後の技に繋げることが出来なかった。この失敗は、特別要求となる「宙返り2つを含めたアクロバットシリーズ」が抜けることにもなり、得点は一気に12点台にまで下がってしまった。
確かに完璧な演技をしても得点的にはアメリカに追いつけなかったかもしれないが、少なくともプレッシャーを与えることは出来たかもしれない。特にレイズマンがアップでアラビアンダブル~伸身前宙で頭から落下しているだけに、プレッシャーがあれば何があるか分からない状況も予想は出来た。
ロシアは2007年の世界選手権の団体決勝でも最後の跳馬で助走が合わずに横にそれようとしたものの、ロイター板を踏んでしまい、演技のやり直しが出来ず0点になってしまうという選手がいた。その0点でロシアは団体のメダルを逃すことになってしまった。当時は銅メダル争いではあったが、失敗の類からしたら信じられないくらいに「まさか」の箇所で起こっており、この2つの失敗は何か通じるものを感じる。若手のプレッシャーに対する弱さはロシアにとって大きな課題になった。
前回はサクラモネが2種目で失敗して金を逃したアメリカ。しかし、それ以降育ってきた選手たちの安定性はかなり特筆すべきものがある。それだけ国内の争いも熾烈であり、精神面でも強い選手が選ばれていることに繋がっているといえよう。個人総合進出を逃した世界チャンピオンのウィーバーも団体決勝では落胆せずに見事に3種目に貢献した。金メダルへの意欲はロシアとの差はないと思うが、その意欲がいいように作用するかどうかが大きな差を生んだのではないだろうか。
ルーマニア対中国も、中国側に大きなミスが出てしまい、中国の自滅でルーマニアが勝った形となった。中国は北京五輪と違い、選手の調子が今一つ上がりきれてない印象もあり、精神面でも戦いきれる状態でない印象だった。一方ルーマニアはヨーロッパチャンピオンのヨルダケが踵の怪我で不調であったが、ポノル、イズバサといったベテラン2人が平均台以降の得意種目をうまくリードして見事な追い上げを見せた。波に乗ると怖いルーマニアの力は、やはりこのオリンピックの舞台で戻ってきた。1976年以降、団体のメダルを死守しているその執念も前回チャンピオンを上回る要素であったかもしれない。
日本女子は、平均台での失敗が結局最後まで影響した。失敗した分、他の種目で追い上げたいところではあったが、Dスコアが他国より劣る中、その追い上げも厳しかった。やはり日本が上位にいくには失敗のない演技を続けることが必須であるのは今大会でもよくわかったし、団体決勝で5位をキープするにはやはりDスコアを上げて攻めた構成を組まないといけないということであろう。日本の長年のライバルであるカナダが今大会で見事に5位に食い込んだのは、前回の日本と同じようなシチュエーションを感じるが、そのカナダの急成長の理由は高難度の技への積極的な取り組みであると思える。質の高い体操の評価はしっかりと受けている日本もそろそろ次のステップに移行する時期に来たのかもしれない。リオに向けて、寺本を中心とした新しい世代がその流れを作り出してほしいと願う。