日本男子は予想外の厳しいスタートとなった。
最初の鉄棒は田中和、山室、内村、田中佑。田中、山室に関しては得意中の得意という種目ではないが、内村は昨年銀メダルを獲得した世界選手権より構成を変えて難度を上げており、田中佑はこの種目のポイントでスペシャリスト枠で代表入り。少なくとも後半二人は得点を計算できる選手であったはずだ。
しかし、結果的に田中和、山室と前半二人が落下こそないものの大過失に近いミスを犯し、続いて内村はコールマンで落下。田中は世界選手権と同じコバチで落下。ポイントゲッター二人が二人で合計して2点以上のロスを出してしまった。
鉄棒は波に乗れば不安を感じない種目であるが、不安や焦りがあると途端にタイミングが狂って「落下」の可能性が高くなる。また、大逆手懸垂で終わる高難度のひねり技でも狂いが生じる。あん馬の次に「怖い」種目となることが多いのだ。そのような失敗シーンは過去の大会で日本のみならず、海外の選手でも多く見てきたが、日本のミスはそのすべてが出てしまったものだ。
その意味で、過去2回の世界選手権では団体戦で田中和、内村、田中佑の3名が落下の経験がある為、どこかでその「トラウマ」的なものがあるような気がしていた。特に内村は国内大会も合わせて失敗するシーンのほとんどは鉄棒であった。彼らの中で何か「狂い」「プレッシャー」がある時の鉄棒は決して安心して見れない・・・。
結果的に田中和、内村、山室は複数種目で失敗を引きずってしまった。田中和はゆかでツルバノフ(伸身トーマス)の後で滑ってしりもち。恐らくここで「やばい、やばい」と相当気にしたに違いない。内村はゆかでまずまずだったのもの、あん馬では鉄棒で生じた「ズレ」を助長するような失敗をしてしまった。山室は最後の平行棒までミスが出て、ノーミスであった得意のつり輪は、実施減点を「必要以上に」しっかりと取られた印象で全く彼にとって悪夢としかいいようのない日となった。幸いなことに、田中和、内村は後半に入って調子を上げてきたのが救いといえよう。
その悪い雰囲気中で加藤の堂々たる演技は見事であった。ゆかでは種目別第一リザーブとなる9位の得点。あん馬、跳馬ではノーミス。悪い雰囲気が流れる中、大きな国際大会が初めてとは思えない活躍ぶりを見せた。
そして、昨年、日本が優勝を逃した世界選手権で象徴的な失敗を見せてしまった田中佑は、その鉄棒の失敗をつり輪と平行棒で見事に挽回した。平行棒の16点近い得点は「彼ならそのくらい取れる可能性がある」というくらい演技の質は高いのだか、最後の最後で見せてくれたのは大きい。その流れで内村、田中和と続いて高得点。兄弟で種目別予選ワンツーで並ぶという快挙を見せた。
中国も同様に調子を落としていた中、アメリカ、ロシア、ドイツ、そしてイギリスといった欧米のライバル国の好調さは素晴らしい。五輪がプレッシャーになる日本と五輪でパワーをもらえる国々。そんな差が出ていたように思える。
日本は予選を5位で終え、中国と並んでつり輪スタートとなった。最後にあん馬。この巡り合わせは中国とてさほど好ましいものではない。しかし、2種目目で跳馬を迎えるため、単純に早い段階で順位を上げておくことが可能になる。その時、あん馬で上位国に失敗が続けば差が広がり、焦りも出るはず。そしてそのまま得意種目をノーミスで乗り切り、最後のあん馬で失敗のない演技で締めくくる。そんなシナリオになるといいが、あん馬で予選で一番の悪夢を見ているだけに、自信を持てるようになるまで各自の「狂い」を直してほしい。そういう練習も積んでいるはずである。
今のままでは団体のメダルまでも楽観できない日本。プレッシャーに勝つということではなく、早く会場の雰囲気、器具といったものを自分たちのものにして、「いつも通り」の彼らで戦ってほしいと願わんばかりだ。