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2012年07月 アーカイブ

2012年07月29日

ロンドン五輪・・・男子団体予選

日本男子は予想外の厳しいスタートとなった。

最初の鉄棒は田中和、山室、内村、田中佑。田中、山室に関しては得意中の得意という種目ではないが、内村は昨年銀メダルを獲得した世界選手権より構成を変えて難度を上げており、田中佑はこの種目のポイントでスペシャリスト枠で代表入り。少なくとも後半二人は得点を計算できる選手であったはずだ。

しかし、結果的に田中和、山室と前半二人が落下こそないものの大過失に近いミスを犯し、続いて内村はコールマンで落下。田中は世界選手権と同じコバチで落下。ポイントゲッター二人が二人で合計して2点以上のロスを出してしまった。

鉄棒は波に乗れば不安を感じない種目であるが、不安や焦りがあると途端にタイミングが狂って「落下」の可能性が高くなる。また、大逆手懸垂で終わる高難度のひねり技でも狂いが生じる。あん馬の次に「怖い」種目となることが多いのだ。そのような失敗シーンは過去の大会で日本のみならず、海外の選手でも多く見てきたが、日本のミスはそのすべてが出てしまったものだ。

その意味で、過去2回の世界選手権では団体戦で田中和、内村、田中佑の3名が落下の経験がある為、どこかでその「トラウマ」的なものがあるような気がしていた。特に内村は国内大会も合わせて失敗するシーンのほとんどは鉄棒であった。彼らの中で何か「狂い」「プレッシャー」がある時の鉄棒は決して安心して見れない・・・。

結果的に田中和、内村、山室は複数種目で失敗を引きずってしまった。田中和はゆかでツルバノフ(伸身トーマス)の後で滑ってしりもち。恐らくここで「やばい、やばい」と相当気にしたに違いない。内村はゆかでまずまずだったのもの、あん馬では鉄棒で生じた「ズレ」を助長するような失敗をしてしまった。山室は最後の平行棒までミスが出て、ノーミスであった得意のつり輪は、実施減点を「必要以上に」しっかりと取られた印象で全く彼にとって悪夢としかいいようのない日となった。幸いなことに、田中和、内村は後半に入って調子を上げてきたのが救いといえよう。

その悪い雰囲気中で加藤の堂々たる演技は見事であった。ゆかでは種目別第一リザーブとなる9位の得点。あん馬、跳馬ではノーミス。悪い雰囲気が流れる中、大きな国際大会が初めてとは思えない活躍ぶりを見せた。

そして、昨年、日本が優勝を逃した世界選手権で象徴的な失敗を見せてしまった田中佑は、その鉄棒の失敗をつり輪と平行棒で見事に挽回した。平行棒の16点近い得点は「彼ならそのくらい取れる可能性がある」というくらい演技の質は高いのだか、最後の最後で見せてくれたのは大きい。その流れで内村、田中和と続いて高得点。兄弟で種目別予選ワンツーで並ぶという快挙を見せた。

中国も同様に調子を落としていた中、アメリカ、ロシア、ドイツ、そしてイギリスといった欧米のライバル国の好調さは素晴らしい。五輪がプレッシャーになる日本と五輪でパワーをもらえる国々。そんな差が出ていたように思える。

日本は予選を5位で終え、中国と並んでつり輪スタートとなった。最後にあん馬。この巡り合わせは中国とてさほど好ましいものではない。しかし、2種目目で跳馬を迎えるため、単純に早い段階で順位を上げておくことが可能になる。その時、あん馬で上位国に失敗が続けば差が広がり、焦りも出るはず。そしてそのまま得意種目をノーミスで乗り切り、最後のあん馬で失敗のない演技で締めくくる。そんなシナリオになるといいが、あん馬で予選で一番の悪夢を見ているだけに、自信を持てるようになるまで各自の「狂い」を直してほしい。そういう練習も積んでいるはずである。

今のままでは団体のメダルまでも楽観できない日本。プレッシャーに勝つということではなく、早く会場の雰囲気、器具といったものを自分たちのものにして、「いつも通り」の彼らで戦ってほしいと願わんばかりだ。

2012年07月30日

ロンドン五輪・・・女子団体予選

日本女子が北京五輪に続き見事に決勝進出を果たした。北京は8位通過であったが今回は6位。着実にアメリカ、ロシア、中国、ルーマニアの四強に続く実力国として評価されている。

男子と違い、決勝進出というのがとにかく一つの壁となっているが、北京以降は日本女子には大きな問題ではなくなっている。選手たちの安定性や実施の質さえ高ければ、難度が多少落ちてもある程度の得点を出せる今のルールというのが救いになっている。

北京以来、とにかく大きなミスを出さないということで信頼の厚い新竹を筆頭に、大舞台、あるいはここぞというところで自分の演技が出来る選手ばかりというのも大きなポイントであろう。特に代表入りするだけでも大変なくらいに層が厚くなっている中で、代表決定戦であるNHK杯で大混戦を制した5人のハートの強さは日本男子以上の逞しさを感じ、本番においても安心して見ていられる余裕を感じた。

残念ながら田中は本来の出来ではなく、ゆかで後方1回半~前方1回の組み合わせで蹴りが合わずに2つ目が前方半ひねりとなって、1本目ですでにその技を使っている為に難度が取れなかったばかりかシリーズ加点を取れなくなってしまった。更に跳馬でもユルチェンコ1回半でしりもちを着く大過失。それでも、段違い平行棒、平均台という2種目で大きなミスのない演技で後の選手に繋げた功績は大きい。また、美濃部は段違い平行棒でほん転倒立で前に倒れかけ、そして下りの前宙ダブルでしりもち。しかし、田中、美濃部のミスに関しては今年に入ってズレているという場面が多かった為、ミスが出るとすればここかな?という予感はしていた。しかし、大きな問題にならなかったのは、美濃部は最初の3人が成功している中であったこと、田中は12点を出せば決勝進出というラインが見える中であったからであろう。

寺本に関してはポディウム練習のレポートでユルチェンコ2回ひねりを戻してきたことが分かった時に、NHK杯辺りで狂いが生じていところがうまく修正できているのかなと思えた。段違い平行棒がその一つであるのだが、本来の流れを戻していたし、平均台の2回ターンは安定感を増していた。そして極めつけは跳馬。田中の失敗があるので1回半にするかと思いきや、2回ひねりにして見事に成功。彼女のひねり技に関する技術力の高さからすれば難しくない技なのだが、昨年のJAPAN CUPで失敗して以来、ひねりの軸を正確に感じず、ひねりに持ち込めないことが続いていた。しかし姿勢欠点はあるものの、ひねりのところの自信が戻ってきたのか、「ここでひねる!」というポイントがはっきりとして、余裕のある着地に繋がった。

鶴見は段違い平行棒と平均台で起用されると思いきや、平均台ではなく跳馬で起用された。その段違い平行棒ではここ数年で一番安定した演技を見せてくれた。片手軸のひねり系で難度を稼ぐのだが、手の怪我もあり、その軸ブレがかなり出ていることが続いていた。しかし、2種目だけの演技という中、練習でもしっかりとその安定性を高めることに集中できたであろうし、彼女こそ大舞台の強さを持っているので、ノーミスの演技は十分期待できた。その結果、チーム唯一の15点台をマークして北京五輪の平均台に続いて見事に種目別決勝に残った。これは偏に選手起用の作戦勝ちといえよう。

さて、優勝争い、メダル争いとなる上位4か国。世界チャンピオンのウィーバーが個人総合予選で国内3位となり予選落ちとなるほど、アメリカの層の厚さを感じる結果となっている。しかし、ロシアもムスタフィナが全種目トップバッターに置くという戦法で、エースのコモワが順当に得点を稼ぎ、決勝でアメリカと互角に戦える状態であった。一方、中国とルーマニアは中国はヤオ、ルーマニアはヨルダケと若手のエースに怪我があって本来の演技でなかった。それを踏まえても、中国のゆかと跳馬、ルーマニアの段違い平行棒は優勝争いに絡むには好得点が望めず、銅メダル争いが妥当なところだといえる。ミスの出た若手の起用方法が大きな鍵となるはずだ。

ロンドン五輪・・・男子団体決勝プレビュー

予選の結果は

1位 アメリカ
2位 ロシア
3位 イギリス
4位 ドイツ
5位 日本
6位 中国
7位 ウクライナ
8位 フランス

となっている。誰もが予想しなかった結果だ。

決勝となるとこの結果は全く当てにできるものではない。日本、中国のようにミスのあった国の巻き返し、そして、金メダルへの可能性があるという中で上位国が味わう大きなプレッシャー・・・。容易に想定できるものだ。

日本男子が持つ一つの不安が「実践での調整経験」だ。5月の最初に早くも代表が決まり、合宿で調整を積んできた日本。しかし、女子とは違い、五輪を経験しているのが内村のみ、そして田中佑は昨年初めて代表入り、そして加藤に至ってはこの五輪が初の代表経験。他国がヨーロッパ選手権や国別対抗といった試合を組んで来たり、アメリカのように直前に選考会があったりする中、日本は国際大会への派遣をせず、更に対抗戦のようなこともなく、(もっといえばJapan Cupもなく)ひたすら合宿での強化に時間を割いてきた。しかし、予選の結果が物語るように、海外での国際大会の経験不足がここに来て大きく影響しているように思える中、予選の演技を踏まえた調整を選手たちでどの程度うまく行えているのかが非常に気になるところである。

そう考えれば日本の強化策は「温室育ち」になりがちなものかもしれない。また、国際大会ならではの雰囲気というのはやはり日本では味わえないものなので、そういった雰囲気にタフにならないと自分を見失うことにもなる。その点では、昨年の世界選手権が日本であったというのは、ある意味で選手たちの海外大会での経験を一つ減らしてしまうことになってしまった。当然ながら、地元開催でのメリットは計り知れないのだが、五輪での演技だけを考えると、「あれがヨーロッパでの大会ならば選手たちは変わっていただろうか」と考えずにはいられない。

今日の決勝では、日本男子は今まで経験したことがないつり輪スタートということになる。最初に上半身の力を使う種目をこなし、最後のあん馬で上半身の力を使う種目で締めくくる。体力不足があればバランスを崩した時などで耐えることが出来るか非常に不安になるところ。恐らくこの順位の想定は日本の中でなかったであろうから、体力的なところのコントロールのみならず、精神面での影響もどこまで考えられているのか。とにかくスタッフ総動員でじっくりと話し合いが持たれて対策は考えられたであろう。それを選手たちがどう理解し、どう調性できるか。この五輪の舞台で、予選での経験がすでに彼らを大きくしていることを信じたい。

2012年07月31日

ロンドン五輪・・・男子団体決勝

はっきりいって、最後の最後で「まさか」が起こってしまった。

内村のあの乱れ。本人も信じられないであろう。
今まで見たこともないものだ。
しかし、それがメダルの色を変えるだけでなく、
まさかメダルを取るかどうかの失敗になるとは・・・。

通常、D得点のインクワイアリー(照会)は、ローテ終了後の
所定時間内に行わなければならない。
しかし、最終ローテはそのまま退場するので、
悲嘆に暮れてそのまま出て行ってはいけない。
その点はコーチ陣はどこでもしっかりと意識しているはずだ。

そんな中で、日本チームはどの大会でもしっかりとアクションを起こしている。
このようなドラマティックな展開になることは初めてだが、
インクワイアリーそのものは過去の大会でも見ている。
恐らくここまで本部席に来るチームもないのでは?
という時もあった(単に意識していたからそう思うだけかもしれない)。

体操は、選手の出来にプラスして、正当な評価を受けるように
このようにコーチ陣もしっかりと動かないといけないというのは
これでよくわかるであろう。今回、しっかりと説明して、抗議した
森泉コーチ、加藤コーチ、そして立花監督。
国際経験豊富なスタッフが勝ち取った銀メダルともいえよう。

メダル無しから銀メダル獲得へと一転したので、すっかり薄れることだが、
やはり悔しい思いはある。最後のあん馬は精神面で仕方ないと
言ってあげたいところであるが、やはり跳馬がそのまま
試合の流れを決めてしまった。「たられば」は言ってはいけないのだが、
山室がアップで狂いが生じたとき、何か策はあったのではと思ってしまう。
でも、結果は結果。そのミスが出た時点で、今日ほぼノーミスの
中国に負けていたということだ。

心配なのは内村。プレッシャーを感じないというが、プレッシャーが
原因でなければこの乱れはなんなのだろう?というくらいになっている。
これが個人総合で同じように接戦となったときにどうなるか。
個人総合はあん馬スタートとなる為、体力があるうちにこの種目を
乗り切ることで無事金メダルに繋がると信じたい。

ロンドン五輪・・・得点照会の波紋

予想外に得点照会=Inquiryへの批判がすごいことになっている。

一度出た結果が一変し、メダル圏外の日本が、一気に銀メダルになり、初の団体メダルとなりかけたウクライナが逆に圏外になる・・・。「Sorry for Ukraine Team」という声は海外でかなり聞かれてるが、
日本国内でも同様の声が予想以上に多い。

そもそも、この得点照会のシステムは、アテネ五輪の男子個人総合の問題に遡る。韓国のヤン・テヨンの演技価値点(今でいうD審判が決める)が正しい得点よりも低く採点され、その為にポール・ハム(アメリカ)に僅か0.049差で負けてしまい、ハムが金メダルを獲得。更に同じ韓国のキム・デウンにも負けてヤン・テヨンは銅メダルに終わってしまったのだ。ヤンはCAS(スポーツ仲裁裁判所)にも提訴したが、結局覆ることはなかった。

当時の得点照会に関するルールはもう記憶の中ではっきりしないものであるが、少なくとも同じアテネ五輪での種目別決勝鉄棒におけるロシアのネモフに対する採点問題(http://www.gymfan.com/report/athens/day8-nemov.htm)も影響して、その後のルールではしっかりと明文化され、誤審がないように、あるいは得点照会に正確に対応できるようにシステムが構築された。そのうちの一つがIRCOS(Instant Replay & Information System)と呼ばれるものだ。

各種目の近辺にビデオカメラが設置され、全演技が録画されており、本部席の上級審判はそれをスロー再生するなどして、Dスコアが正確であったか、E審判が極端な採点をしてないか確認する際に利用している。特に体操において、人間の目ではもはや追いつけないことも多いだけに、「ヒューマンエラー」を防ぐためには必要不可欠となった。

さて、今回、「なぜ最初から審判は分からなかったのだ?」という声が多い。確かに、主審はビデオで見直すことは出来ず、本部席の上級審判がその対応をできる訳であるが、一旦D審判、E審判の得点がシステム上で打ち込まれた後、おかしいと思えば上級審判はIRCOSを使って確認し、修正の指示をしているはず。そして、最終的に得点が表示されるのは、上級審判がその得点で問題なしと判断した後である。

日本チームは得点表示後、即座に得点照会している。それはまず主審に対して口頭で行われるもので、それでも納得できない場合には、数万円単位の金額を払った上で上級審判に文書で照会をする。このアクションは相当慣れてていないと即座には出来ないと思える。しかし、上級審判は基本的には表示されている得点に対しては問題なしと判断しているはずであるので、お互いの主張は平行線をたどる可能性が高い。そこで他の上級審判や審判長が介入し、そして上級審判により最終判断が下されるのである。今回でも審判長(技術委員長)のストイカ氏が協議に加わった後、最終的に「内村のDスコアを上げるべき」と判断された。

こうなると審判の質という話にもなるのであるが、これは見る角度により相当見方が異なるケースもあり、こういう事態になったからといって、「レベルが低い」ということには直結しない。また、本部席は種目の前にある訳ではないので判断が難しいケースも多いはず。その為にIRCOSがあるのだが、今回、その活用の前に上級審判の判断があったのではないかと推測する。それくらい、彼のミスへの動揺が審判全体にあったということになるのではなかろうか。

こうしてヒューマンエラーで涙を呑む事態を防ぐ対策が取られているのであるが、それでもウクライナチームのような悲劇が生まれてしまったのは悲しい事実である。かといって、最初に選手・コーチのみにこっそりと点数を教えることは出来ない。例えば、水泳でいえばリレーの引継ぎ違反の判断がなされるまで最終順位の表示がされないように、体操でも得点表示への工夫が必要になると思われた。そう、「まだ公式ではないからちょっと待ってね」というのが分かるように・・・。

採点競技の体操が、より客観的に序列が付くようにアテネ五輪以降様々な工夫がなされてきているが、今回、観客や選手たちに対しての気遣いという意味でも更なる工夫が必要とされたと思う。


ロンドン五輪・・・女子団体決勝プレビュー

海外的には女子の人気が高い体操。その中で、今回はアメリカ対ロシアの図式の他に、人気のルーマニアの復活と、中国が前回の女王ということで、かなり注目度が高い。

アメリカの方が世界チャンピオンのウィーバーが予選で国内3位ということになってしまったほど全体的な勢いはある。しかし、ロシアもムスタフィナ、コモワの両エースのほか、アファナシェワ辺りも十分対抗できるレベル。ここはポイントは一つ。「ミスをしたら負け」・・・こうとしかいえない。

ルーマニア対中国になるであろう銅メダル争い。どうしてもこの二か国には弱い種目があるので、ノーミスであっても上に上がるのは厳しい。ここは苦手種目よりも得意種目でいかに得点を稼ぐかに注目。ルーマニアのポノルがベテランの経験でチームを引っ張れば、今回リーダー格の存在を感じにくい中国に対してリードを奪う可能性は十分ある。ヨーロッパで行われる大会での強さを考え、ルーマニアがかなり波に乗った演技をするのではないか。

日本はイギリスとの5位争いを繰り広げたい。平均台スタートとなるが、日本の方が安定性が高いはず。ポイントはゆか。寺本のほかに田中も14点台を獲得しておきたいが予選のミスを引きずらないか?跳馬は互角かもしれないが、最後の段違い平行棒でトゥエドルの圧倒的な点数を考えると、跳馬で出来ればリードしておきたい。ここも田中がいつもの出来であれば可能性はある。そして最後の段違い平行棒は鶴見が再度完璧な演技をするかどうか。全体的に田中、鶴見にポイントを置きたい。

他国の巻き返しに関しては、イタリア、カナダを比べればやはりフェラーリのいるイタリアが恐いところ。しかし、安定度は日本には敵わない。油断大敵と思いつつも、やはり同じ班で回るイギリスをしっかりとマークしておくことが5位死守のカギとなるであろう。

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