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2009年11月 アーカイブ

2009年11月07日

2009年世界チャンピオン・・・内村航平

 記憶に新しいはずの北京五輪での個人総合銀メダル。しかし、世間では既に今年の世界選手権の個人総合金メダル獲得で名の知れた、日本のみならず体操界を代表する選手となった。そう、彼はもはや世界を相手にするというより、「自分自身がライバル」となるほどの世界チャンピオンなのである。

彼へのインタビューの際、大抵出てくる質問が「五輪以降の練習はどうでしたか?」「世界チャンピオンとしての意識はありましたか?」などなど、とにかく過去の実績に対する彼の意識に関するものである。これは普通に考えて、記者は興味を持つ、いや、何も考えずにも出てくる質問であろう。しかし、彼から必ず返される言葉は「過去は過去なので」という回答。私はこれこそが彼が今世界で一番の力を持つ選手である要因であると思う。北京五輪のあん馬の落下の後の追い上げも、そして、世界選手権で金メダル確実といわれた中のプレッシャー中での勝利も、全て、「過去の」出来事を頭に入れず、「今の」演技に集中できる「切り替え」があったから成し得たことであろう。

そういう思考は、競技者としては素晴らしい実力を発揮できることに繋がる反面、対人面においては少し淡白な人柄を印象付けてしまう。私個人では、彼と接する中で、かなり個人的ではあるが彼の中でちょっとした「変化」を見るエピソードがある。

2007年のプレ五輪大会、彼の演技を初めて撮影したのだが、その写真を含めたアルバムをファンの方々に見せる為に2008年の2次予選大会に持参した。そして、彼がNHK杯の抽選前に談笑をしているところに出くわした為、慌ててアルバムから写真を出して彼にプレゼントした。突然なので私も入れる袋を用意できずにそのまま渡してしまったのだが、彼は「ありがとうございます」とジャージのポケットにしまった。その時の非常に低い声は当時彼がメディア露出がほとんどなかった中でかなり印象的であった。正直なところ「嬉しくなさそうだな」と思ってしまった。その後、NHK杯では仕事として彼と接した。その際、「写真あげたの覚えている?」と聞いたら、あっさりと「覚えてません」。抽選の前にプレ五輪の写真を渡したのだけど・・・と加えても「覚えてません」。がっかりした気持ちは、私が一方的に持つ「喜んでもらおう」という思いが空振りに終わったということを意味していた。

その次に撮影したのはマドリードのワールドカップファイナル。これは北京五輪銀メダリストの彼の出場より、アテネ五輪金メダリストの冨田洋之の引退で注目された大会である。ここで彼はゆかのみの出場で銀メダルを獲得。その時の演技写真や表彰式の写真はプレ五輪よりも多く、私も今回は「喜んでもらおう」というよりも、「喜んでほしいなぁ」という願望の気持ちになった。そして、今年の全日本個人の際、記者会見前に時間のあった彼にタイミングよく袋に入れた写真を渡すことが出来た。「ありがとうございます」の声のトーンは明らかに去年より高く、そして目の前にあったバッグにしっかりと入れてくれた。「おお、去年と違う!」と思えた。

そして、今年のロンドンでも撮影の機会に恵まれた私は、金メダルを胸にした写真など、きっと一生の思い出となる写真をフォトフレームに入れて、全日本団体・種目別の時に渡すチャンスをうかがった。それは思いのほか早くやってきて、公式練習後の記者会見前に渡すチャンスがあった。彼は「ありがとうございます」としっかりと受け取ってくれた。しかしタイミングが悪く、会見を今から行う彼からすれば置き場所に困ってしまうことに後で気付いた。「後で渡した方がよかったね」と、会見後に渡そうとした私の言葉に対し、「いえ、これ、バッグに入れてきていいですか?」と、会見場からすぐではあるが、彼のバッグのある更衣室までわざわざ戻って、入れに行ってくれたのである。思わず「ゴメンね」と言ってしまったくらい、彼の行動は私に対して気を遣ってくれたものであった。

大会の結果、規模も違い、私の渡し方も違うので比較をするのは間違っているかもしれないが、年を追うごとに写真に対する扱いが変わり、少なくとも渡す方からするとかなり嬉しい対応をしてくれるようになった。「過去は過去」と言う彼が、「過去の一シーンを留める」写真を大事にしてくれるのは、私としては彼の違う一面を感じ取れるものである。写真を見て彼が振り返る「過去」は果たしてどういうものなのか。写真を感慨にふけるとういうのはもしかしたら引退するまでないのかもしれないが・・・。

いずれにせよ、彼を知れば知るほど「後でゆっくり見てくれたらいいから!」と思えるようになった渡す側の私の方にも変化があったのかもしれない。いつの間にか競技者、チャンピオンとしての内村航平に対して、より興味を持つようになった。

2009年11月08日

ロンドン世界選手権 その1

 今大会、出場選手、並びに実際の演技を見ると、「素直に日本選手の活躍を喜べない」と思う方々がいなくはないと思う。確かに、五輪後の世代交代が進み、五輪で燃え尽きてしまった選手がしばらく休養に充てている中で、日本選手が実力を伸ばして、堂々とした演技を連発したのは大変誇らしいものを感じる。しかし・・・失敗した選手たちに対して、恐怖を感じるのは事実である。更に、男子に関していえば、種目別狙いで個人総合を「いつものように」バッサリと切り捨てた中国に関しては、「何か自信がないとああいう作戦には出ないはず」と思わずにはいられない。

 メダルの数だけで成功かどうか、勝負に勝てたかというのは計れないものがあるが、中国は北京五輪の成功の道をそのまま辿っていくように思える。個人総合で圧倒できる選手さえ育成できれば、種目別のスペシャリストはたくさんいる。確かに1種目だけでは団体を考えたら使えないが、2種目は優勝争いに食い込める力があり、他にそこそこの演技が出来るという選手であれば団体でも活躍できる。今回のメンバーに関しては、このままであれば来年代表に入る可能性は低いと思われるが、実際に他の種目をどこまで出来るのか、まだ国際大会で見せていないので、この選手たちだけでも不気味なところはある。そして、来年用に強化している若手がいるはずで、その選手たちがどんな実力があるのか。しかし、今回男子6種目中4種目を制した今年のメンバーを上回る、2~3種目で確実に高得点を出す選手はそう多くないと思われる。

 5-4-3制の予選、5-3-3制の決勝になる団体戦。例え中国でも個人総合を戦える選手を重視しないと、種目によっては極端に点を下げてしまう。かつて、プサンアジア大会からアテネ五輪までは、予選でつり輪を4人しか演技しない戦法を取ったが、今回も大胆に3名しか演技しない種目を作るのか。日本では考えられない戦法が、絶対的な自信を感じさせるが・・・。

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